渋温泉郷
長野県下高井郡山ノ内町平穏(しもたかいぐん やまのうちまち ひらお)
ここに奈良時代の僧、行基(ぎょうき)が最初に入ったと言われる温泉がある。
行基は今から1300年ほど前の僧で、諸国を巡り橋や堤防を造る社会事業に力を注ぎ
聖武天皇の御代に東大寺、国分寺の造営に力を尽くした人です。
一言で言えば日本を仏の慈悲で人間らしく住みやすい世界を作ろうと考えた人です。
そんな行基が開いた温泉とあっては、行基の人間らしさの一端にでも触れてみようと
思うのも自然なことです。
次の写真はもっとも渋温泉らしい温泉郷の姿です。志賀高原から雨水、雪水を集めてとうとうと流れていくこの川はまず千曲川に注ぎそれから信濃川を通って日本海に流れ出ます。
小雨が降っていたので薄ぼんやりしているが、画面の奥には志賀高原の山が見える。
ここも上信越高原国立公園と指定されているだけあって、四季を通じ自然を楽しめる環境が整っている。2000m級の山々が立ち並び、清冽な48もの池、湖、空気、見渡す限りの空間、まるで日本列島が大きくなったように見えるのが不思議だ。
空テラスの雲海を見るのもいいだろう、
北アルプスに連なる日本列島の背骨を見るのもいいだろう、
高原の空気を白樺の木立の中で満喫するのもいいだろう、
それは堀辰雄や串田孫一らの叙情をさそう。
実際彼らも何回かこの地を訪れている。
ここには人間の心と自然の美しさを実感できるところだ。
愛する家族、愛する恋人、愛する子供達、あるいは失恋した旅人、あるいは孤独な魂の叫びにも、全て全て受け入れてくれるだろう。
渋温泉郷には数々の温泉があるが、いっぺんに全部を回ることはできない。一つ一つ気分を変えて訪れよう。百歳までには、時間は有り余るほどあるんだから。
あなたは以前からこの志賀高原や温泉郷などを訪れた有名人をご存じですか?
これは山ノ内町の中央公民館が昭和61年に編纂発行した書籍ですが、私はこれを地元の図書館で発見した。書籍の題名は「志賀高原を訪れた文化人」というものだ。
訪れた彼らは日本の文化を間違いなく形作っている、例えば、
文学界からは、
石川達三、石坂洋次郎、井上靖、井伏鱒二、大岡昇平、尾崎士郎、大佛次郎、川端康成、菊池寛、今東光、佐藤春夫、里見淳、志賀直哉、武田泰淳、谷崎潤一郎、壺井栄、中野重治、夏目漱石、丹羽文雄、林芙美子、藤沢周平、舟橋聖一、堀辰雄、正宗白鳥、宮本百合子、吉川英治氏ら、まだまだいる。
劇作家としては、
坪田譲治、松谷みよ子、永六輔、西条八十、野口雨情
俳人としては
飯田蛇笏、小林一茶、高浜虚子、種田山頭火
歌人としては、
折口信夫、窪田空穂、斎藤茂吉、島木赤彦、与謝野晶子、与謝野鉄幹、吉井勇、若山牧水
画家として
池田満寿夫、伊藤深水、岡本太郎、葛飾北斎、川端龍子、竹久夢二、中村岳陵、東山魁夷、
平山郁夫、棟方志功、横山大観
漫画家としては、
谷内六郎、横山隆一
音学家としては
小澤征爾、古賀政男、田中直子、中山晋平
芸能界としては、
安全地帯、春日八郎、加藤登紀子、北島三郎、越路吹雪、佐良直美、東海林太郎、菅原洋一、ダークダックス、舟木一夫、フランク永井、ボニージャックス、マヒナスターズ、 松山千春、美空ひばり、三波春夫、三橋美智也、村田英雄
映画界からは
今井正、今村昌平、大林信彦、黒澤明、羽仁進、深作欣二、山田洋次
落語家として
江戸家猫八、三遊亭金馬、桂文楽、三遊亭楽太郎
タレントとして
鳳啓助、京唄子、泉大助
スポーツ界からは
ガッツ石松、柏戸、猪谷千春、北の湖、木原光知子、琴櫻、大鵬、隆ノ里、玉ノ海、
双葉山、力道山
俳優としては
青島幸男、有馬稲子、石原裕次郎、岩下志麻、上原謙、岡田真理子、市原悦子、加山雄三、香川京子、加藤大介、加山雄三、小林旭、菅井きん、杉田かおる、杉村春子、杉良太郎、高峯秀子、武田鉄矢、田中絹代、丹下キヨ子、檀ふみ、千葉真一、津川雅彦、鶴田浩二、司洋子、十朱幸代、夏目雅子、野際陽子、伴淳三郎、藤田まこと、藤村志保、松原智恵子、松本幸四郎、三国連太郎、笠智衆、若尾文子、渡哲也
政財界では
浅沼稲次郎、田中角栄、福田赳夫、横田喜三郎、保利茂、渋沢敬三、白洲次郎
学者として
桑原武夫、串田孫一、高野辰之、羽仁五郎、林健太郎、臼井吉見、亀井勝一郎、無着成恭など計1250名の方々の足跡があります。
志賀高原を巡った後は、体を休める場所、温泉、料理それとやさしい仲居さんのいる旅館が 是非とも必要だ。私は中堅どころの春蘭(しゅんらん)の宿「さかえや」を選択した。旅館というものは人によって当て外れがあるものだが、ここはよかった。大当たりだ。リピート客になってしまうかも。
ここはさかえやの露天風呂
目の前は一幅の絵のような風景である
光と時期があえばこんな写真も撮れる。
ミツバチが花を目指してゆっくりと飛び交っている
段飾りのように、四季折々の花が咲いて、
今は赤いケイトウの花と淡いピンクの山野草だ、
左の端は竹林が続いている。
次第に目を上のほうに移せば
青い空を背景に白い雲が動いている
雲は一頃の雲とは形を変えている
活動的な積乱雲ではなくて、静かな穏やかな雲だ
雲が動いているのが分かる。
季節が変わったことを空が教えてくれる
そうか、もう秋に入ったか。
私は誰もいない露天風呂で手足を伸ばしてみた
温度は41~43度、熱くもなくぬるくもない。
志賀高原の温泉、渋の温泉は日本の数多くの文化人に
明治の昔から愛されたことを最近になって知った。
きっと、この移り行く秋の気配と温泉のなごみを
彼らはゆったり味わっていたのだろう。
(記:高野)